3度目のサザンドラ

元々ポケモンブログでしたがいまはゲーム全般について書いています

【アークナイツ】ストーリー考察/感想 - 風雪一過 編

 2022年6月29日開始のイベント「風雪一過」のストーリーを整理していきます。エンシオディスとノーシスが何を狙ってどんな計画を描いたのか、ドクターがそれに対してどのように介入したのかに注目して見ていきましょう。

1. 雪山事変の背景

1-1. エンシオディスの両親の死

 雪山事変の契機は15年前にさかのぼります。エンシオディスの両親であるオラファー夫妻が亡くなったことです。
 イェラグではこの2人の死はノーシスの両親の仕業だということにされていますが、それは事実とは異なります。2人が亡くなったのは列車の事故であり、誰かの意志で殺害されたのではありません。
 ブラウンテイル家の当時の当主はラタトスの祖父のルカ、ペイルロッシュ家の当主はアークトスの父でした。この二家はオラファーが進める工業化政策に反対していました。ルカはオラファー夫妻の暗殺を計画し、アークトスの父もその計画を黙認していました。
 ルカはオラファー夫妻の事故死を処理するときに、エーデルワイス家に殺人の罪を被せました。理由は詳しくは語られませんでしたが、対立していたブラウンテイル家やペイルロッシュ家に疑いの目が向けられたときに、実際に暗殺する計画(からくり屋敷)を立てていたので、マズイ状況になると判断したのでしょうか。
 エーデルワイス家もイェラグの名家ではあるものの、三大名家の実力には勝てなかったのでしょう。汚名を覆すことはできず、ヴィクトリアに引っ越すことにしました。息子のノーシスも両親と一緒にイェラグを離れました。
 ノーシスはオラファーを尊敬していました。オラファー夫妻の悲劇を目の当たりにしたエンシオディスとノーシスは理念を受け継ぎ、イェラグをどこよりも強い国にするのだという誓いを立てていました。
 エンシオディスはエンヤとエンシアの成人を見届けると、4年間ヴィクトリアへ留学しました。イェラグ貴族の地位を活かして人脈を築きつつ、外の知識を積極的に吸収しました。ヴィクトリアでノーシスにも再会しています。

1-2. 地理的な外圧

 イェラグの外に出たエンシオディスが最も衝撃を受けたのは、国際情勢の変化でした。
 200年前の開拓の時代は終わり、数十年前ぐらいからは戦争と交易の時代に移っていったと言われていました。移動都市が発明されたことで人々が天災に対抗する手段を得て、自国のことだけでなく外国に目を向ける余裕ができたのだと思います。
 ガリアという強国が跡形もなく滅ぼされてしまったという話はこれまでも語られてきました。イェラグは土地が痩せた小国と思われているようですが、天災が降り注がない不思議な土地でもあります。他国がイェラグに興味を持ったとき、領土を守ることができるでしょうか。エンシオディスは難しいだろうと考えました。
 イェラグは周りを大国に囲まれています。カジミエーシュはニアーライトで見たよう商業的に発達した国で、南下政策をとれば進路にイェラグも含まれてきます。ヴィクトリアはメイン9章で見たように豊富な軍事力を有した国で、いまは内政がゴタゴタしているようですが、それが落ち着けば侵略を開始するかもしれません。クルビアはライン生命やレイジアン工業などの最先端企業を多く輩出した国で、東方面への開拓を進めていて、イェラグの西側の山脈へと迫ってきています。
 エンシオディスは焦っていました。いますぐにイェラグが標的になることはないかもしれませんが、イェラグの産業は諸外国と比べてあまりにも遅れています。追いつくための時間が必要で、いざ戦争になってしまえば敵国は待ってくれません。イェラグの近代化を進めねば国を守れない。それが彼を突き動かす原動力なのです。
 余談ですが、クルビアは昔はヴィクトリアの一部で、ガリアの支持を得て独立したのだという情報が出てきました。四皇会戦でガリアがヴィクトリアに滅ぼされた理由の1つなのかもしれません。ヴィクトリアはガリアのせいでかなり大きな領土を失ったことになりますから。


1-3. 留学からの帰還

 留学から帰還したエンシオディスの動きを見ていきます。
 近代化を急ぐエンシオディスはカランド貿易を設立して他国との交易を進めました。ノーシスも一緒にイェラグに帰ってきて、カランド貿易の共同設立者として技術面を担当しました。
 エンシオディスが留学に出ている間、シルバーアッシュ家は領主不在の状態のため、三家会議の議席を失っていました。イェラグの外を見たことがない人たちからすれば、戻ってきたエンシオディスの言動は理解ができません。最初は摩擦が大きかったと思います。
 保守的なアークトスや大長老を説得するのは大変なことでしたが、唯一理解を示してくれたラタトスの後押しも得て、2人を説得することができました。カランド貿易で稼いだ資本力と、ラタトスの後押しで三家会議に戻ることができました。
 ラタトスは頭の良い人物です。当時エンシオディスの主張を一番理解していたのは彼女なのでしょう。彼の政策からブラウンテイル家は利益が得られると踏んだのだと思います。三家がバラバラになりつつあったところ、エンシオディスの旗振りのもとでもう一度1つになってイェラグを前に進めていけるかもしれないと期待したとも言っていました。
 この時期にもう1つ転機が訪れました。先代の巫女が亡くなったのです。信心深いエンヤが妹であったことはエンシオディスにとっては幸運なことでした。彼は妹に巫女の試練を受けるように命令しました。
 エンヤはなぜ兄が自分に巫女になるように命令してくるのか、なんとなくわかっていたはずです。兄の都合の良いように利用されるのだろうと。反発心を覚えていたものの、彼女は逆らうことができませんでした。怒りを胸に抱いたまま彼女は巫女の試練を受け、そして見事巫女の座に就いたのです。
 エンヤが巫女になることができたのは彼女にその実力があったからです。ヤエルが語っていたように、ほんの少しは兄に対する怒りが貢献したかもしれません。シルバーアッシュ家の出身であるという前提がありながら、保守派のアークトスでさえエンヤが巫女になることは歓迎したとのことでした。
 エンシオディスはこのようにしてイェラグを支配する足固めを着々と進め、カランド貿易の規模を拡大させていきました。


1-4. イェラグ-ロドス関係

 雪山事変にロドスが巻き込まれることになったきっかけを見ていきます。
 エンシアは不慮の事故で鉱石病にかかってしまいました。彼女の左足の太ももには痛々しく源石が刺さっています。妹思いのエンシオディスは、彼女の治療を任せられる機関を探し、ロドスへ辿り着きました。
 ロドスが信頼できると見込んだエンシオディスは、エンシアをロドスに滞在させ、その護衛にカランド貿易の社員であるヤーカとヴァイスをつけました。3人はロドスとオペレーター契約を結び、治療のみにとどまらない協力関係を構築しました。
 エンシアを滞在させる前、エンシオディスがロドスへの信用を深めた事件が1つありました。エンシオディスはロドスに「カランド貿易全社員分の医療保険と鉱石病の鎮痛剤を配りたい」という、大口の発注を持ちかけました。こういう大きな発注は受注側にとってありがたいことなので、ディスカウントを提示するのが世の常なのですが、ロドスはもともと鎮痛剤を原価ギリギリの低価格で販売していたため、ディスカウントを断りました。
 この取引自体は無事完遂されたものの、ロドスはカランド貿易へ販売した鎮痛剤の一部が転売品として市場に出回っているのを発見しました。ドクターはこれを調査するべく、転売が疑われた支店へと潜入調査を行いました。
 潜入調査の過程でドクターは感染者に対する揺るがぬ姿勢をエンシオディスに示すとともに、巧みな作戦で転売ヤーの支店長から情報を聞き出しました。これによりロドスとカランド貿易の協力体制が深まるとともに、エンシオディスはドクターに非常に興味がそそられ、イェラグへの招待に繋がっていきました。
 エンシオディスは社員の前で「ロドスが値引きをしてくれることになった」と勝手に発言して既成事実を作ってしまい、鎮痛剤をディスカウントしてくれなかったことに対する反撃を行いました。こういうところは非常にしたたかです。
 雪山事変に関わったイェラグ出身のオペレーターがもう1人います。オーロラです。彼女はイェラグの地理に詳しく、権力者と直接のかかわりがないので、ロドスとしてはこの任務を任せるのにぴったりの人選となりました。
 オーロラはシルバーアッシュ家の主催する人材育成プロジェクトでクルビアに留学し、大学で勉強していました。気象現象の方のオーロラを見てみたいということでサーミの北の氷原への調査任務隊へと出向いたとき、源石雹という災害に遭遇し、感染者になってしまいました。留学を途中で切り上げてロドスで治療を受け、のちにオペレーターとなりました。


2. エンシオディスの計画

2-1. 谷地と鉱区

 風雪一過の直前の時系列です。雪山事変はここから始まっていきました。
 アークトス、ラタトス、そしてエンヤがエンシオディスの行う谷地と鉱区の開発の調査を求めました。自分の領地をどのように使おうがエンシオディスの勝手だとは思うのですが、谷地の工場にはイェラグ中の人が出稼ぎに向かっていて、二家にとっては他人事ではありませんでした。イェラグには「手のひらに収まるサイズ以上の鉱石を持ち出してはいけない」という戒律があったりするので、急拡大する鉱区の開発にも反発があったのだと思います。
 ラタトスは7年前はエンシオディスの政策に賛成し、シルバーアッシュ家が三家会議に復帰することを支持しましたが、彼の事業を見守るうちに反対派へと回ってしまいました。彼女は独学で経済学を勉強し、諸外国と不利な条件で取引を続けるエンシオディスを見て、イェラグを外国に売り渡そうとしているのではないかと勘違いしてしまったのですね。
 これは悲しいすれ違いで、イェラグと他国の差を知らなかったラタトスが陥ってしまった誤解でした。イェラグを発展させるためには、不利な条件に目をつむってでも他国から技術を取り入れなくてはいけないフェーズだと、からくり屋敷のシーンでエンシオディスが説明してくれていましたね。イェラグはそれほどまでに出遅れていたのです。
 エンヤまでもが谷地と鉱区の調査要求を出していたのは意外なことでした。大長老はこの行動に苦言を呈していましたが、エンヤは抗っていきます。巫女になったエンヤは蔓珠院との関係性に苦労していました。過去の大長老たちは巫女を操り人形にしてきました。しかし彼女には意志があります。エンシオディスに対して調査を要求したのも、彼女の反抗心からくる行動だったのだと思います。
 アークトスの部隊を中心とした調査隊が該当区域に入ろうとしたとき、ノーシスが調査隊に攻撃を仕掛けました。表向きは自分の研究所を守ろうと暴走したのだと捉えられたはずですが、これには意図がありました。ここから始まる壮大な茶番劇の冒頭の演出でした。

2-2. 主権奉還

 ノーシスの暴走で表向きエンシオディスは窮地に立たされました。アークトスとラタトスは「谷地と鉱区の統治権の返上」と「三家会議からの離脱」という厳しい要求をエンシオディスにつきつけたのです。
 ノーシスが調査隊を襲撃することは裏でエンシオディスと示し合わせたことでした。エンシオディスはノーシスの解雇で手を打ってもらえないかと提案していましたが、二家は納得しませんでした。それも想定のうちだったことでしょう。
 自分が谷地と鉱区を支配していることが気に入らないなら、イェラグ全土の統治権を巫女様に返還しましょうというのがエンシオディスの次なる提案でした。公平を期すために三家会議の場にエンヤを呼び、彼女にすべてを決めてもらおうではないかと議論を進めました。敬虔なアークトスは当然賛成しました。疑り深いラタトスはエンシオディスの真意を探ろうとしますが、三家会議の場を仕切っているのは蔓珠院の大長老であり、場の雰囲気的に彼女が断れるわけもありません。
 統治権を返還される側のエンヤもエンシオディスの計略を疑っていましたが、彼女自身には断る理由を作ることはできません。であれば自分が主体的に主権奉還を受け入れ、その後の処理も含めて大長老に対して主導権を取った方が良いと考え、その場ですぐにこの提案を受けることを決めました。エンシオディスはエンヤのことを尊重してはいたでしょうが、コントロール可能な存在として見くびっていたのではないかと思います。
 解雇されたノーシスはトカゲのしっぽ切りにあったような立場になりましたが、これも作戦のうちでした。これから行う裏工作に対して、「エンシオディスへの私怨」というもっともらしい理由を得たのです。



3. ノーシスの演技

3-1. 秘密鉄道の爆破

 ノーシスの最初の一手は鉄道の爆破でした。
 この鉄道はシルバーアッシュ家が秘密裏に運用していた輸送路でした。武器や戦闘員などを運び込み、戦力拡充に用いていました。毛皮を運んでいたという描写もあり、経済活動にも利用していたようです。他の人々にこの路線がばれていなかった理由は、鉄道が通過するときだけ現れる可動式の線路だったからです。ノーシスが建造したものでした。
 解雇されたノーシスはブラウンテイル家に接触し、エンシオディスへの報復の協力を要請しました。慎重なラタトスはノーシスを信用しません。そこで彼はこの鉄道爆破を見せつけ、本気でエンシオディスと戦うのだという気概を示しました。さらにいうとこの爆破には証拠がありません。ラタトスを共犯者に仕立てることもノーシスにはできます。彼女を脅す形で協力を取り付けました。
 ノーシスが鉄道を破壊したのにはもう1つ意味がありました。シルバーアッシュ家が運用している路線とはいえ、外国のスパイやトランスポーターが忍び込んでくる恐れがあります。これから始まる雪山事変では、イェラグの統治が一時的に大きく揺らぐことが予想されます。外敵に付け入る隙は少しでも塞いでおくべきだと考えたのですね。
 ノーシスを解雇することは事前に示し合わせていましたが、そこから先のノーシスの作戦はエンシオディスは一切把握をしていませんでした。彼を信頼していたのです。鉄道の爆破は非常に良い一手だったとのちに褒めていました。
 鉄道爆破の一部始終をSharpはこっそりと覗いていて、ドクターへ報告を上げていました。ドクターは列車を降りた途端にアークトスに捕えられていましたが、このSharpの報告と合わせて状況を分析することで、イェラグで起きていることの概略を把握したのではないかと思います。


3-2. 暗殺犯メンヒ

 ノーシスの次の一手はエンシオディスの暗殺でした。
 大典の儀式でエンシオディスの護衛が手薄になる隙を狙って、暗殺者であるメンヒが命を狙いました。メンヒはもともとノーシスの部下で、強い忠誠心を持っていました。メンヒはヴァイスと同じ種族(イトラ族)だと言われていたため、イェラグ出身なのかなと思うのですが、過去に何があったのかは謎です。
 メンヒはスパイとしてブラウンテイル家に入り込んでいました。政争が相次いでいたので、いつか役に立つときがくるかもしれないということでノーシスが潜り込ませていたのかもしれません。ラタトスの妹であるスキウースはメンヒのことを信頼していました。
 聖猟という儀式が暗殺の舞台に選ばれました。野獣を狩って神様への供物とする儀式です。聖猟に臨むにあたって、スキウースもメンヒに指示を飛ばしていました。聖猟で華麗に狩りを成功させてブラウンテイル家のいいところを見せたいという素朴な願いです。特に今回は巫女であるエンヤが強引に参加することを決めていて、スキウースは一層気合いが入っていました。
 二重の命令を受けていたメンヒですが、元のご主人様であるノーシスの依頼こそが大事です。不意打ちでエンシオディスにケガを負わせました。しかしエンシオディス本人に姿を見破られてしまっては勝ち目がありません。二発目以降は当てられず、彼女は崖へ飛び降りて逃亡を図ります。それすらも読まれていたようで、崖の下でヴァイスに捕まりました。ここはノーシスの行動を読んでいたのかもしれないですね。
 ドクターもこのような危険性を予期していたのか、Sharpをシルバーアッシュ家の護衛として紛れ込ませていました。エンシオディスの方が強かったのでSharpが手を出す必要はありませんでしたが。
 ノーシスはメンヒを使うことでブラウンテイル家に暗殺未遂の汚名を被せました。表向きノーシスとメンヒの間に繋がりがあることはバレておらず、この事件の裏にノーシスがいることを知るものはほとんどいませんでした。
 メンヒ自身も計画全体における暗殺の意義は聞かされておらず、のちにノーシスに心情を吐露していました。なぜ信頼してくれなかったのですかと。エンシオディスとは阿吽の呼吸で通じ合っていたノーシスでしたが、メンヒへのコミュニケーションは同じようにはいきませんでした。

3-3. お酒への毒物混入

 大典の場を利用してノーシスは次なる一手を放ちました。大長老に毒を盛ったのです。ただし、ノーシス自身は手を汚していません。ペイルロッシュ家のヴァレスを利用しました。
 ヴァレスの父親は不審な死を遂げました。聖猟でケガをして大長老に看病された際に、「山雪鬼に襲われ危険な状態にあり、霊薬を飲ませなければならない」と診断されました。信心深いアークトスは大長老に従い、霊薬をヴァレスの父に飲ませましたが、彼は亡くなりました。
 ヴァレスはずっと疑いを持ち続けていました。山雪鬼などイェラグにはいません。父は何に襲われ、何に殺されたのか。あのとき飲まされた霊薬を疑っていて手元に保管していました。ただ、彼女にはそれを毒と判断する術がありません。
 この事件のことを知ったノーシスはヴァレスに接触し、霊薬の成分を分析し、霊薬は毒物だという事実を告げました。ノーシスはこれ以上ヴァレスに対して何かをしたわけではなさそうで、彼女の復讐心が事件を引き起こしました。
 ヴァレスはノーシスに言われたあとも半信半疑だったと語っていました。もし霊薬が本当に薬であるなら大長老は無事だし、ノーシスの言う通り霊薬が毒物なのであれば彼女の復讐が果たされる。そんな意図で大典のお酒に霊薬を混入しました。
 科学はウソをつきません。大典で毒物を摂取した大長老は民衆の前で倒れました。ヴァレスは復讐を果たし、アークトスは大長老暗殺の濡れ衣を着せられることになりました。
 大長老がヴァレスの父を毒殺した理由は、彼が蔓珠院に盾突いていたからだと言われていました。霊薬を毒だと偽る行為は、宗教を司る者としてとても卑劣です。しかも自らは手を下さず、アークトスを使うという徹底っぷりでした。
 アークトスに罪を被せたのもヴァレスの復讐の一環でした。ただ、大長老に従っただけのアークトスのことは、ヴァレスはそこまで恨んでいない様子でした。
 この作戦においてもノーシスは表向きには一切関与が見えません。エンシオディスのやることに反対してばかりいたアークトスと大長老を同時に退場させる非常に強烈な一手でした。さすがのドクターもこれには気づけなかったようです。
 

3-4. ノーシス本人の反撃

 ノーシスが放った最後の一手は、自分自身でエンシオディスを襲撃するというものでした。
 このときノーシスはブラウンテイル家の戦士を引き連れていました。鉄道爆破でラタトスを脅して得た兵力だと思われます。ノーシスはラタトスに「家を守るために立ち上がれ」と発破をかけていましたが、これも2人が結託しているように見せる演技でした。けっこう演技派でしたね。
 ノーシスが氷のアーツでエンシオディスを攻撃しようとしたところを、デーゲンブレヒャーに押さえつけられました。拘束されたメンヒとの関与をばらしてしまったスキウースを守ろうとして、ユカタンもシルバーアッシュ家に拘束されました。ノーシスとブラウンテイル家が一網打尽にされたというような格好です。
 この茶番劇によって、エンシオディスは自然な形でノーシスの身柄を確保し、任務を達成したノーシスを民衆から守れるようにしました。ラタトスは慎重に立ち回っていましたが、ノーシスにまんまと嵌められてしまいました。


4. ドクターの介入

4-1. 民衆からの見え方

 このタイミングでドクターがついに動き出しました。なぜだったのでしょうか。
 エンシオディスとノーシスの茶番劇は完璧に成功しました。大典の儀式が舞台に選ばれたのは、民衆の注目を集められるからです。三家のうちで最も信頼できるのはシルバーアッシュ家だと強烈に印象付けたのですね。
 アークトスとラタトスは濡れ衣を着せられて罪人となり、過熱した民衆は2人の処刑を求めました。ここがドクターの介入ポイントとなりました。2人が死ぬと彼らが治めてきた領地の住民たちが指導者を失い、イェラグに大きな戦争が起きることが予期されたのです。政治に介入はしないというロドスの基本方針を破ってまで、ドクターは行動を起こしました。
 大典を見物している際に、ドクターはヤエルからイェラガンドや巫女の物語を聞きました。大昔に蔓珠院への反乱がおきたときに、イェラガンドの主が目覚めて、反乱を止めた伝承です。ここまでの騒ぎをドクターは見物してきて、どのような作戦をとれば被害が抑えられるか大まかなイメージはついていたのだと思います。勝算があったのでしょう。
 カランド貿易を解雇されてから単独で暗躍を続けてきたノーシスは、ここでエンシオディスと合流しました。2人はアークトスとラタトスを助けたドクターのことを不気味に感じていました。当初思い描いていた勝利は完璧な形で達成されたものの、外部から招いたドクターという不確定要素がイェラグに何をもたらそうとしているのか分からなかったのですね。
 大典での事件を受けて戴冠の儀式は中止され、エンヤはシルバーアッシュ家の護衛に監視されることになりました。彼女が手に入れられる情報は限られていたと思いますが、自分の立場は正しく認識していました。もともと宗教国家だったイェラグで、主権奉還が決まっていたこともあり、エンシオディスに対抗できるのは巫女であるエンヤしかいません。

4-2. 巫女と信仰

 ここからの戦いのカギを握るのはエンヤです。
 ドクターは部外者にも関わらずこの戦いの情勢を正確に見抜き、エンヤに接触する一手を放ちます。エンシアにエンヤを守るようにお願いをしたのですね。エンシオディスもノーシスもドクターが巫女を利用することは読めていましたが、エンシアが山を登ってくるとは思わなかったでしょう。
 大長老とエンヤの会話が、両者のイェラグへの考えの差異を示すシーンとなりました。大長老は停滞の権化とでも言うべき存在で、人々は信仰に依存して安定を求める存在だという持論を展開し、エンシオディスといえども信仰には勝てないだろうと高をくくっていました。イェラグが千年間同じような体制で統治を続けてこれたのは、このような考え方が機能していた証拠だとは思うのですが、外圧が高まっているいま、イェラグは変わらなくてはいけません。
 エンヤは信仰そのものに資性はなく、蔓珠院が信仰を停滞させているせいで、イェラグの人々も前に進めなくなっているのだと指摘しました。信仰を前に進めることで、人々も新しい時代に適応できるのだと。シルバーアッシュ家の人間らしい考え方なのですが、エンシオディスから影響を受けたというよりかは、巫女になった数年来悩み続けた問題に、自らが結論を出した形です。エンヤが悩む様子をヤエルはずっと見守っていました。エンヤの言葉には悩みぬいただけの力がありました。
 あとになって、エンシオディスは信仰を根絶したいわけではなかったという趣旨の発言をしており、彼らは必ずしも真っ向から対立していたわけではなかったことがわかります。だからこそ、最終的には2人がトップとしてイェラグを統治していく未来が実現したのでしょう。

4-3. ドクターの作戦の肝

 雪山事変の最終フェーズで何が起きたかを見ていきます。
 ドクターの狙いは最初からエンヤのみでした。ドクターがどこまで予期していたのかはよくわかりませんが、エンヤを蔓珠院から救出し、主権奉還を行って彼女がイェラグを治める体制を構築しようとしていたのではないかと思います。
 一方、エンシオディスとノーシスはドクターのことをよく知りません。アークトスとラタトスを率いるドクターの狙いは、巫女が最優先であることは頭ではわかっていても、もしかしたらシルバーアッシュ家を打倒してイェラグの支配者になるつもりなのではという疑念が払しょくできません。
 まずはグロとスキウースがシルバーアッシュ家の戦力を割かせました。並行してドクターの本隊とアークトス隊が別々のルートでカランド山に向かい、巫女の奪還を目指しました。
 ドクター側の一番の懸念点はデーゲンブレヒャーの存在です。彼女に自由に動かれると何もかもが台無しにされてしまうので、ドクターはシルバーアッシュ領に繋がる関所に侵攻すると見せかけて敵の危機意識をあおり、ドクターに扮したSharpがデーゲンブレヒャーを足止めする構図を作り出しました。
 ペイルロッシュ家の本隊は十分な余力を残した状態で、ドクターに率いられてカランド山を目指します。聖猟の山側から迫っていたアークトスと合流し、手薄になったエンシオディスの本隊と対峙しました。ドクターの思い描いた巫女救出作戦が見事に決まりそうになりました。
 ここから先の展開をドクターはどこまで予想していたのでしょう。エンヤはシルバーアッシュ家の護衛を打ち倒し、戦いを止めに入りました。聖なる鈴を介した強力なアーツを使える彼女ですが、大きな争いを1人で止められる力があったかと言われると疑問です。
 最後はヤエルが力を貸してくれました。天候を操り、雪を降らせていた雲を割って、エンヤがペイルロッシュ家とシルバーアッシュ家の戦いを止めました。伝承にある通りの神の御業であり、信心深いイェラグの人々は止まらざるを得なかったことでしょう。戦いは終わり、エンヤがより一層の信頼を得る結果となりました。
 ドクターの介入によってエンシオディスが失ったものはありません。彼の勝利は揺るがないのです。ではドクターは何を成し遂げたのか考えてみると、多数の人命が不必要に奪われることを回避したことと、エンヤの決意を尊重したことが大事なのではないかと思いました。エンヤは三家を仲裁し、信仰を前に進めてイェラグを導いていく覚悟を決めました。イェラグにとって、そしてシルバーアッシュ兄弟にとって、より良い未来の形を提示したのですね。エンシオディスとノーシスにとっては予想外の結末だったことでしょう。

5. その後

 もともとオペレーター契約を結んでいたクリフハート、マッターホルン、クーリエ、オーロラに加えて、シルバーアッシュ、プラマニクス、ノーシス、イェラがオペレーターに加わった経緯を見ていきます。
 エンシオディスは雪山事変が終わってすぐにロドスに加わったわけではなく、もう1つ事件を経てからオペレーターになりました。彼がヴィクトリア留学中にお世話になったウォルトン子爵から、誘拐された娘を助けてほしいという依頼が届いていて、それをロドスに仲介したのです。
 エンシオディスが任務を仲介した理由は2つ。1つは犯人が感染者である疑いがあったこと、もう1つはロドスがヴィクトリアとの繋がりを求めていたことです。9章の直前の時系列であり、ロドスはヴィクトリアに停泊できる場所を探していました。雪山事変を解決してくれたドクターへのお礼をしようと考えたのです。
 しかしエンシオディスが思っていた通りに事は進みませんでした。この事件は娘ケイトが仕掛けた狂言誘拐であり、兄カールはエンシオディスの助けを跳ねのけます。エンシオディスは感染者を取り巻く状況を詳しく知らなかったのですね。
 ドクターはウォルトン子爵からの依頼を果たすことをよりも、感染者であるカールたちを救う道を選び、エンシオディスにも協力させました。一時的にお金を渡しても感染者の暮らしは改善しません。カランド貿易に雇用させて、安定した収入を得られるようにしたのです。
 この件でロドスはウォルトン子爵からの信用を失いました。エンシオディスはロドスにお礼をするつもりだったのに、逆に借りを作ってしまいました。彼はこの埋め合わせをするためにオペレーター契約を結びました。ケルシーはエンシオディスのことを信用していないため、彼に不利な条件を提示したらしいですが、彼はそれを飲んで周りを驚かせました。
 エンシオディスはドクターに友人になってほしいのだというお願いをしました。カランド貿易の社員や姉妹たちは関係性に縛られていて、友人とは呼びにくい関係なのだと。リリース初期から実装されているシルバーアッシュが、なぜこんなにドクターに友好的なのか謎でしたが、だいぶ謎が解けた一件となりました。
 ノーシスは研究のためにロドスにやってきました。彼が雪山事変で演じた役はあまりに悪者であり、事件後も民衆の誤解は解けていません。研究所に毎日石を投げ入れられたくないと言っていました。ドクターにも興味があるらしいです。
 エンヤは巫女として民衆を率いる立場ですが、彼女もイェラグの外を知る必要性を感じています。リスクを冒してまで、彼女はお忍びでロドスに滞在したがりました。エンヤひとりでは難しかったかもしれませんが、ヤエルがサポートをすることでなんとか実現できているようです。
 雪山事変の裏の立役者であるヤエルは、普通の人間ではないことを隠そうとはしません。血液中源石密度0.00u/Lのスーパーボディを持ち、アーツではない謎の瞬間移動術を使う彼女は、ニェンたちの同類なのだそうです。ロドスでニェンに会ったときに非常に驚いたそうで、自分以外に同族が生きていることが信じられなかったのかもしれません。ニェンの12人の兄弟姉妹たちの起源は炎国の神様なのだという話が出ていましたが、遠く離れたイェラグの主と関連があるとなると、ますます正体がよくわからくなってしまいました。


感想

 ここからはただの感想です。
 雪山事変は始まる前からエンシオディスの企みがどのようなものなのかということに焦点が当てられ、すべてが彼の手のひらの上なのではないかという認識を頭に置いたまま読者がストーリーを読み進める形になりました。全オペレーターの中で「戦術立案」の項目が最高ランクの「卓越」なのはシルバーアッシュとWの2人だけです。彼の術中に読者がどのようにハマっていくのかを気にしながら読み進めていました。
 個人的には風雪一過は2つの驚きがありました。1つはノーシスの策略。もう1つはドクターの策略です。
 エンシオディスの立てた計画に対して、コミュニケーションをほとんどとらずに自立支援を行ったノーシスの暗躍は目を見張るものがありました。表向きの姿と真の意図を両立させながら、少しも疑われることなくエンシオディスの計画成就に貢献したのです。
 エンシオディスとノーシスという2人の策略化を相手取り、勝利の形をイメージして介入を図ったドクターの頭脳がさらなる驚きポイントでした。機動戦術だけではなく、信仰が人心にどのように影響するのかも加味した作戦でした。休暇で旅をしにきたはずのこの人が、状況把握からここまでの介入を図るスピード感は異常です。
 エンシオディスに注目を向けさせられていたからこそ、中盤の予想外の動きに驚き、結末の美しさに余計に感動しました。まさかこんな物語になるとは。キャラクターもみんな魅力的で、本当に面白いストーリーでした。





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